イカ釣り漁師の深い話し(^^)



【疑餌素材について】
一般に東北方面の漁師さんで、最近なら年輩の方ということになりますが、イカ釣り針を「ヅノ」と呼びます。 これは「角」の濁音で、古来能登〜東北では牛の角、鹿の角を材料として疑餌を作っていた名残りです。 戦後、この角がベークライト樹脂(硬質)で作られ、これが20年間位スタンダードでした。

【酒とイカ漁師】
船団で日本海各地をイカと共に移動する「船泊まり」の漁師さんはまぁ、朝からよく飲みます。 私自身まだ若い二十歳代のころは漁師さんは酒好きなんだなぁ程度の認識でしたが、 最近は「そうか、飲まなきゃ朝から眠れるわけないよなぁ」という気持ちが分かりました。 朝5、6時には港に入り水揚げ後、7時頃には自船の所定の位置に「もやい」をとって、朝飯の準備。 飯の合間に日本酒をやりながら‥というわけですが、その後は、寝るのが仕事。 確かに酔わなきゃ眠れないというのが、漁師の実生活なのでしょう。

【イカ漁師の巡業】
4月頃対馬海峡を北上するイカの稚魚が7,8月には能登半島あたりの日本海沖合で 青年期を迎えますが、秋口には更に北上した秋イカと呼ばれる立派な成体となります。
このころは北海道西部沖合が主な漁場というわけですが、この動きにあわせて 19トンクラスの船団が、壱岐、対馬から移動。
北の船団は再び南下後、北上してゆきます。船団により漁協の協定で港が決まってきますが、 水揚げをしながらイカの群を追うことになり、周年操業しています。

【世界のイカ釣り】
日本のイカの輸入は実はノルウェーあたりの北海バンク漁場の網ものが一番多いようです。 加えて、日本、韓国、台湾、中国あたりの大型赤いかの冷凍物が多いようです。 いかは冷凍しても味があまり落ちません。
また鮮魚としてのイカは、国内沿岸の一本釣りものです。 生で食べる習慣の影響なのでしょう。刺身になるのは一本釣りでないと、網では魚体が痛みますから。


【イカの生態について】

イカの目は大きいですね。魚体の割合からすると、本当に大きいようです。視神経の太さも群を抜いて 直径1mmはあるそうで、その点、やはり餌の視認、動体視力は格段優れているようです。
以前、北海道大学へのアジアからの留学生の研究課題が「イカは色盲かどうか」ということで 調査協力依頼があり、疑餌胴体の各色を提供したことが有りましたが、結論的には「色盲でした」という 話を聞いてあ然としたことがあります。 私たちメーカーには漁師さんからいろんな色の注文があります。同じブルーでも、も うちょっと濃くとか、薄くとか細かい注文があります。
もっとも、海況、潮の濃さ等の影響でどの色が今年は見えやすいかという事は関係すると思います。
ちなみにダイビングをされる方はご存じだと思いますが、水深10mを越すと赤は緑に見えてきます。 過去に一度水中で手を切って自分の手から流れる血を見たことがあります。僕のは、特別きれいな緑の血でした。

 イカには空気袋はありません。体内のアンモニア濃度を調整して、浮いたり、沈んだり(潜ったり‥)します。 このため、魚体の大きい赤いか(NZ近辺、北太平洋辺り)は刺身にするとどうも臭いが厳しいです。 一晩調味液に漬けるといい味になります。
また外洋の大型イカ釣り船での船内作業で立て続けにイカの選別、内臓とり作業を してるとアンモニアのせいで手の皮がひりひりして仕事にならないなど大変な作業のようです。
おもしろいのは、イカの胴体、内臓に種別されて水揚げされたものは食品業界で用途により割り振りされて 流通するのですが内臓は、加工・調理製品原料に供されるらしいです。
北海道に行くと「イカゴロ」と言って釣りの集魚材にもなるのは有名ですね。

【漁法の変移】

昔のイカ釣り漁業は当然手釣りになるわけですが、現在の漁業としての基礎は、東北や佐渡近辺の漁法のようです。 もちろん西日本でも地元なりの漁法が有ったわけですが、東北のケンサキは非常に用心深いというか釣るのは難しいイカです。 反面、スルメイカはそうでもないように聞きます(これは聞いた話にしないとスルメから怒られますので‥)
ところで、昔のイカ釣りの話ですが、漁業としての量産性は、この点スルメイカの方 が圧倒的に数も多いし、釣りやすいとなるとおのずと 「どのように、作業効率を高めるか」になってくるわけです。そこで、二股の サオを用いたトンボ釣り的漁法が生まれました。
一人でより多く釣る方法です。最近まで、年輩の漁師さんでも疑餌針を「トンボ」と 呼ぶ人がまだまだいました。

そうするうちに、疑餌針の上下にリングをつけて連結タイプがでてきました。 これを生み出したのは、八戸の「浅利研究所」です。
現在のイカ釣り漁業の基礎は、そこで生み出されたと言っても過言では有りません。
西日本の壱岐、対馬への連結針の技術の伝播は、同社の先代社長の苦労の賜物と聞き ます。おおよそ、40年前程度のことでは無いでしょうか。
  そのころには、より多く効率的に釣るため連結式にして、手回しのローラーで巻 き取る漁法が普及していきました。
聞く話によると、元千代の富士関が中学生の頃アルバイトで手回しをやっていた という話を聞きました。腕力はそこで養ったという話です。 そもそも、一晩中手回しでは大の大人の漁師も泣き出すほど辛い作業だったようです。
中学生のアルバイト料がべらぼうに高くて一般成人の給与をはるかに超す手取りだったようで、 子供にそんなに大金を渡していいのかという時事話題も出たほどです。
それ以降、いまから30年ほど前から、自動イカ釣り機(電動モーター式)の 開発が始まり、普及してきました。
それまでは、乗り子と呼ばれる歩合制の漁師さんが19トンクラスに14,5人乗り込んでの漁でした。
自慢めいて恐縮ですが、オッパイ針がヒットして品不足が続くと「オッパイ針がな いと、乗り子が船に乗りません。助けると思って、送ってください」という時期もありました。 これは自慢でなくお客さんにいかに迷惑掛けたかの話です。


【漁り火焼け】 

社内にNASAの衛星写真で夜の日本海を撮影した放映分のVTRが有りますが、東京 の都会の灯りと同じくらいの灯りが日本海に出現しています。
このライトが明るくて、漁師さんは日焼けしてます。健康な色でなく妙に黒っぽい日 焼けで海の男?とクエスチョンマークをつけたくなる日焼けです。 いかんせん夜釣りですから。


【私個人が見てきた漁師さん】

以下は私個人が漁師と会って体験してきたことと、私個人の意見ですので軽く読み流してください。
漁師さんの世界も若手が増えてきて隔世の変化を感じます。 私自身がまだ20代の頃の漁師さんは仕事中の海の上だけまともで、 漁を終えて陸に上がると、飲んで寝るだけ!とはっきりした漁師さんが多かったようです。

従って、新聞なんか読まねぇ、テレビも見ない、ラジオで演歌聞くか、月夜は漁に出ないので スナックで飲むか‥なぜか飲むと言う字がついて回ってたようです。

最近は、こっちが年くったせいか、若手の漁師さんが多い。年の頃20代後半から30代前半が一番 元気のいい世代。40代以降は若年寄り株という感じで、渋く船団を見ている、そういう感じですね。

昔と比べてどこが違うかというと、私感ながら半分は海の上のことを考えてるが、後半分は完全に 陸の若者という風情です。
漁師さん相手の商品は、新聞紙にくるんではい、と渡せばそれはそれで当たり前の事 のように受け取って、それで終わり。そういう感じが以前はありましたが、今は完全な消費者の 視線があります。確かに陸に上がれば車を飛ばしてデート、買い物ですから 私たちメーカーも昔のように新聞紙がパッケージという訳にはいかないのが当然です。
ただどうも、この新聞紙と既製のパッケージに無視できない感覚があります。
新聞紙で顔見知りの漁師さんに「はい」と手渡す感じには、商品の出来の信頼感が 今よりあったような気がします。
立派なパッケージは、どうもその辺をあいまいにして、「はい」と手渡す感じが否めません。
月夜と言えば、やはり漁を休む漁師さんは昔から多かったようです。時化(シケ)と月夜は 漁師さんの休み日ですが、中には月夜でも漁の出来には問題ない、ちゃんと 釣れるという人もいますので一概には月夜だから釣れないとは言えないようです。
ちなみに月夜は海全体が明るい。プランクトンも海全体に散って集まりが悪い、小魚もしたがって 集まらない、イカが来ない。そういう感じです。 せっかく集魚灯を焚いても、イカが集まらないと言われてます。

年輩の60代位の漁師さんでしたか、博多の船だまりに集まる漁師さんでも長老組の漁師さんがおられて、 若手の18歳のいい青年を船に乗せ、二人で漁をしていました。デキのいい若者だったようで 漁もよく、若いのに陸に上がらずよく働いてくれる。というのが長老の自慢でした。 「あんまりよくまじめに働くけんくさ、嬉しゅうて車ば買ってやったら船に戻って来んようになったばい。」 ・・・いうこともありましたが、確かに終夜海で作業というのは孤独感をさいなまれる、 精神的にこたえるもののようです。

こちらが営業車で能登半島から秋田、青森、北海道と港みなとを走っていると、つい半月前にあった同じ船に 別の港で再会。・・・ということは、まぁ、おなじルートを海と陸で走ってるものですから、よくあり ました。
中学を出たばかりの少年らしき乗り子が、いまにも連れて帰ってくれという風情で 陸を見る光景もあります。精神的には鍛えられるだろうが、大変な毎日だなと思います。
多分に、多くの漁師さんがこのような時期を経て一人前になっていく、そんな世界です。 その辺が、漁師さん固有の胸を張った生き方につながる気がします。

こんな凄い話しもあります。
親子で乗っていて、喧嘩の挙げ句息子が「帰る、オヤジとはやっとられん」 と日本海のど真ん中で海に飛び込んで泳ぎ始めた漁師がいます。 オヤジもおやじで、「勝手に帰れ!」とそのまま知らんぷり。船はドンドン走り去り 息子はスイスイ夜の海をひた泳ぎ、という光景です。

無線で喧嘩の終始を聞きつけた僚船が駆けつけて、朝方海で漁師を拾ったという話しなんですが、 もちろん実話。ただ、この話の時はなぜか漁師仲間は大笑いしながら酒の肴にしてました。
これを笑うところが漁師さんなんでしょうね。
もちろん、怒って「息子もむすこなら、オヤジもおやじだ」と叱りとばす年輩の漁師さんもいますが、 最後は決まってワハッハァ、なもんですからホントに心配してるのか、おもしろがってるのか。
境港の話です。しかし、なんか判る気がします。

これが漁師が付けた名前です。(^^;)

【実際の漁の様子】

漁師さんの漁業現場はおおまか二通りあります。
沿岸で夜間操業をして朝には自宅に帰る小舟組です。たいてい船から降りて近いところに 家があります。
あとは、母港を出ると最低でも1週間は漁を続ける19tonクラス〜30tonクラスの漁師さん達です。 彼らは冷凍船を船団に含めて動くケースもあれば、自船の冷凍庫が満杯になるまで帰港せず 数隻単位の船団で漁を続けます。
冷凍設備を持たない日帰り組は、夕刻3:00〜4:00位に自船に乗り組むと、まず製氷所へ 船を回します。おおよそ3階建て位の鉄骨タワーには、製氷設備からパイプで砕いた氷が運び 込まれていて、その都度タワーから下がった排出パイプの真下に船を回しパイプを船底へ下げ 大抵は引き金になるロープを引くと一定量の氷を積載する事が出来ます。 油槽所もほとんど同じ場所で燃料の補給を済ませると出港です。
冷凍設備を有する船団は大いに元気です。勇んで出漁するという感じです。
船団の結束は固く、家族以上の親近感があります。当然、気のあった同士が海に出るのですから 助け合いは自分の事のように真剣です。
一度、乗り込ませて頂いた船の無線からエンジントラブルの仲間の声が飛び込んできた ことが有ります。悲痛な面もちの声です。
そこには、自船の事故を報告するよりもむしろ、操業中の仲間の手を休ませなければ ならない事態に対する「済まない」というか「申し訳ない」というか泣き声に近い状態です。 これがあの、勇ましい海の男かという切々とした無線の声です。

反面、剛胆と言えば剛胆なのか、出港してものの10分もたたないうちに「福島さん、 一眠りしとかんね」という誘いと共に、「猟場に着くまで、一眠りタイ」と船長自ら 寝る始末です。船はと見ると、自動操縦でトコトコ走るまま。 真っ暗闇の日本海を一人船だけがGPSの数値のままに、波を蹴立てます。もちろんレーダーも頼りにしてますが。 自分が海に出るときは漁船のそばは決して走るまいと心に決めてます。

漁場に早めに着くとまだ明るいときがあります。自動機をセットして、集魚灯に 火をいれる。じわ〜っと明かりが増してくる。一度にポンと明るくなるわけではない。 そうすると、船上の明るさが増すと共に驚くほど、周辺の海域は真っ暗闇に 変わってくる。ああ、こんなに夜だったのかと驚く次第です。 まだ新聞でも読めそうな明るさだったのにという感じです。
水面では、明かりと共に無数のプランクトンが辺り一面沸き立つように見え始めます。 それと共に、小魚の姿がプランクトンを追ってちらほら見えます。
初めて飛び魚を見たときは驚きました。雀が一羽、水中で溺れてる!そんな感じで羽を広げて水中で舞ってます。
こんな感じが漁の始まりの2,30分前の状況です。その間漁師さんは自動機を セットします。艫にはすでに投入したパラシュートアンカーが目一杯ロープをきしませて 踏ん張り、エンジンは発電のためニュートラル状態で唸っています。

イカ釣り機が動き始め、ぼちぼちイカが釣れ始めるくらいは戦さの 緒戦です。一晩のうち、1,2時間位が漁の最盛でしょうか、短時間にイカが上がり 始めると今度は、イカ立てが漁師さんの仕事です。舷側に沿って取り付けられた シューター(雨とい風の流し)をつたってイカがどんどん前甲板に集まってくる。 これをトロ箱に氷を敷き詰め、イカのサイズ毎に並べていきます。 このイカ立てという作業は結構辛いです。特に自動機の普及で、乗り子さんの数が 2人程度で操業するのですから。

船団同士の情報交換も盛んです。操業の合間に、連携をとっている 仲間内の船団から漁模様が入ってきます。これはもちろん、海域、漁獲量 すべて暗号でやり取りします。

漁の勇ましさは今も昔も同じです。


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